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半径2m以内の弱視の世界 2023/5/15

「一日一善」を習って

 written by 高橋 正視 投稿日時:2023/05/15(月) 22:38

小学校の何学年か覚えていませんが道徳の時間に「一日一善」をを習いました。
一日に1回は良い行いをしましょうということでした。
立派な行いでなくてもよく道路に落ちているゴミを拾うことでもよいらしい。
 家に帰っていつものように母が一人で開いている店の留守番を市ながらその授業を思い出したのですが「僕はほとんど毎日店の手伝いをしているのでそれでよいのかな。」と。
その時、都電を降りてきたのでしょう橋を渡って店の前の道路に向かって歩いてくる白杖の人が見えました。
店の前の号路のそばにはドブ川が流れていて転落防止の柵などはありません。
今の私のようにゆっくりと危なっかしく歩いていたのです。
私は「そうだ、良いことをしよう」と思ってその人に走ってちかよりました。
私の家の近くに盲学校があって白杖を持っている人はどのような人か知っていました。ただ全員が何も見えない人だと思っていましたが。

「どちらに行かれるのですか」
自分でも驚くくらいはっきりした大きな声でした。
当時の私は人の前ではすぐに顔が赤くなって言葉も何度も同じ言葉を繰り返してしまうことが多かったのです。
知らない大人に話かけるなど全く考えられなかったのに。
たぶん「この人は僕の顔が見えないから恥ずかしくないや」と思ったのでしょう。

「ありがとう。いま歩く練習をしているのです。一人で行けるので大丈夫ですよ」
立ち止まって私のほうを見ながらそう答えて再び歩き始めました。
私は行き先を聞いただけですが知っている場所なら案内しようと思っっていたのですがそれを感じていたのですね。
何か手伝おうと思ったのに何もしないほうがその人には良いこともあるのだなと不思議な気持ちでその人の後姿をいつまでも見つめていました。

その後の私は人前であがることは少なくなり知らない人に対しても普通に話せるようになった気がします。積極性も出てきたかな。

他人のために何か良いことをしようと思って行動したのですが、自分のために良いことをした結果になったようです。